ご挨拶
本ページをご訪問くださりありがとうございます。高知工科大学 総合研究所 インフラサウンド研究室・室長(併任:同 システム工学群・教授)の山本真行と申します。私たちは2004年よりインフラサウンドの研究に着手し、現在までに多くの知見を得てまいりました。現在、当研究室ではインフラサウンドを活用した様々な研究活動を展開しており、その一端をご紹介したく本ページを開設いたします。
ご紹介する内容は、高知工科大学を中心とした研究段階のもので、今すぐに津波の警報を出すようなシステムが構築されている訳ではございませんが、基礎研究として津波等の巨大災害を生む現象に対する新たな検出手段を構築し、それを地域住民と共に成熟化させていくことは、宇宙・地球観測に関わる研究者・開発者として、また地域住民としての課題であります。
本ページに公開される日々の準リアルタイム観測データの変動を通して「地球の声」を少しでも感じとって頂くとともに、私たちの研究の意図やその可能性についてもご理解を賜ることができれば幸甚です。
- 高知工科大学インフラサウンド観測ネットワークについて
- インフラサウンドとは…
- 「インフラサウンド面的観測による津波防災情報伝達システム」の概要
- 高知県における観測の概要
- 本ネットワークの観測データと観測事例紹介
高知工科大学インフラサウンド観測ネットワークについて
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図1 複合型インフラサウンドセンサー ADXII-INF-01 |
高知工科大学インフラサウンド観測ネットワーク(以下、本ネットワーク)は、同大学が研究主体となり実施中の「インフラサウンド面的観測による津波防災情報伝達システム」の開発を主目的とし研究開発中のものです。
近い将来の発生が懸念される南海トラフを震源とする大地震に関して、高知県に立地する同大学では地震・津波防災のための様々な研究が行われてきました。私たちの研究チームは、高知工科大学と株式会社サヤが共同開発した「複合型インフラサウンドセンサー」ADXII-INF01(図1)を2015年2月に発表し、2016年には高知県黒潮町をモデル地区として計5台のセンサーを設置、2017年には高知県内沿岸域の計15ヶ所に拡充し、津波起因インフラサウンドの到来を陸上から「面」的に検知するネットワークを構築しました。
本研究は、近い将来に津波規模などの情報を準リアルタイムに得て地域自治体や住民に届けることを目指し、幾つかの研究助成を得て行っております。競争的研究費の拠出元である、セコム科学技術振興財団、日本学術振興会(科研費)、科学技術振興機構、総務省(SCOPE)、ならびに富士電設株式会社、株式会社サヤに感謝申し上げます。
本ページは、インフラサウンド観測のメリットや海溝型巨大地震の発生時の津波防災への活用可能性を広く一般の方にもご理解して頂く事を目的とし、同センサーによる観測データをグラフ表示し、インターネット上で準リアルタイムに公開しております。観測地点の確保やデータ中継システムの構築については、関係行政機関や地域住民の皆様のご協力を賜りました。この場をお借りしてここに厚く御礼申し上げます。
インフラサウンドとは…
インフラサウンドとは、人間の可聴周波数範囲(20 Hz~20 kHz)より低い周波数(約0.3 mHz~20 Hz)の音波のことで、大きいモノの把握に適しています(図2)。一方、高周波側の聞こえない音は超音波と呼ばれ、衝突防止用センサーのように細かい空間の把握に適しています。音楽を想像すれば、例えば弦楽器のバイオリンとコントラバスの違いのように、小さい楽器は高い音を、大きい楽器は低い音を発生させます。人の耳に聞こえないような重低音が発生するのは、つまり地球が巨大な楽器として振動するときなのです。
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図2 インフラサウンドの周波数 |
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図3 インフラサウンドの波源 |
インフラサウンドは地球物理学的規模の様々な現象によって発生します。代表的なものとして、火山噴火・雷鳴・地震・津波・隕石の大気圏突入があり、さらには人工的爆発・核実験なども挙げられます(図3) 。火山噴火の検知では、気象庁や大学などが空振計を各火山の火口周辺に設置し、噴煙が見えない場合の噴火状況の把握と噴火警戒レベル(入山規制など)の決定にも活用されています。
音波には周波数が低いほど遠方まで減衰せずに届く性質があり、遥か遠方の現象を把握できます。地球物理現象のうち最大規模の現象の1つが津波であり、例えば2011年東日本大震災の津波では、数千kmの遥か彼方までインフラサウンドが届きました。一方で、インフラサウンドは通常のマイク(マイクロホン)で計測可能な範囲よりも大変低い周波数を扱うため、低周波専用のセンサーが必要となります。
「インフラサウンド面的観測による津波防災情報伝達システム」の概要
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図4 津波によるインフラサウンドの発生と伝搬 |
海底を震源とする大地震の発生に伴って海底が隆起(もしくは沈降)することで、海面も隆起(もしくは沈下)し津波が発生します。このとき、海面が一種の巨大なスピーカーとなってインフラサウンドを発生させます(図4) 。
海上で発生したインフラサウンドは音速(約340 m/s=約1,225 km/h)で進みます。一方、津波の進む速度は海の深さに依存し、海が浅くなるほど遅くなる性質があります。インフラサウンドは、平均的には津波の約2~3倍の速度で陸地に到達するのです。現存する幾つかの種類の津波計測技術では、海上や海底にセンサーを設置する必要がありコスト高になります。一方、センサーを陸上に設置できるインフラサウンドの場合にも、相手の現象規模に応じ複数地点に面的に設置しなければなりませんが、それでも設置やメンテナンスのコスト的に有利です。
複合型センサーでは、インフラサウンドだけでなく、気温・気圧・騒音レベル(可聴周波数帯)・3軸加速度(簡易地震計に相当)の各センサーが同時搭載されており、人工的な騒音・振動や気象現象等によるインフラサウンドとの峻別や、地震発生をトリガーにした観測体制の確立が可能となります。
近年の日本では十分に市民権を得たと言える緊急地震速報システムに対し、本ネットワークを全国規模に展開し結合できれば、海溝型の巨大地震に伴う津波など広域で発生する巨大災害に迅速に対応する警報システムの構築が可能と考えています。
具体的には、1)緊急地震速報の受信、2)地震波の到来(加速度計による振動検出)、3)一定期間の待機、4)インフラサウンドの到来、5)津波規模の検出、6)警報レベルの確定と伝達、7)津波規模の高精度な把握、8)防災初動対応への活用、という流れが想定されます。
津波被害が想定される沿岸地域では、本ネットワークによる情報伝達を待たずに、地震発生と同時に避難を開始しなければなりませんが、例えば1次避難地で高精度な津波規模情報(高精度な津波警報)が得られれば、さらに安全な場所に逃げる必要があるか等の検討について、科学的な情報を用いた考察が可能になります。
多くの大都市、つまり人口密集域は、歴史的に自然地形を活用した湾奥に立地します。本ネットワークでは、海上からのインフラサウンドが最も早く検出可能な全国の岬を中心に日本沿岸に同センサーを設置する計画です。岬からの情報を都市域まで伝達できれば、都市域での避難余裕は警報レベルの把握後でも20~30分程度取ることができると期待されます。
多くの大災害の場合、最大被害に見舞われる場所の情報が入手できない事態が発生します。地震発生により、既存の有線・携帯電話回線が遮断され通信不能となった状況でも、本ネットワークの観測データを延滞なく送信する必要があると言えます。このため、専用の低電力長距離無線通信機によるロバストな非常時通信の確保を目指した研究開発も並行して進めています。
高知県における観測の概要
高知県黒潮町は、2012年に発表された中央防災会議の被害想定において、全国で最も高い34.4mの津波到達が予測された地域です。同町の行政や住民の地震津波防災に関する意識は、同想定の発表以前からも高く、2016年11月には「世界津波の日」高校生サミットが同地で開催されるなど、地震津波防災の先進地として内外から注目を浴びる地域です。
本研究は、大学として得た研究費を最大限に活用し低コストで整備を進めるため、これまで地域・住民参加型で進めて参りました。2016年にセコム科学技術振興財団からの研究助成(当時は準備研究段階)を得て計5台のセンサーを設置可能となった際、黒潮町役場や地域住民の皆様に働きかけてご理解とご協力を得られることとなり、同年8月に黒潮町内5か所へのセンサー設置を実現し試験観測エリアとしての運用を開始しました。
その後、2017年12月に、高知県内の計15地点への面的配置が完了しました(図5)。さらに科学研究費補助金(科研費)を得て北海道に3地点を試験設置したほか、関連企業からの支援を得て、2018年には三重県や千葉県の周辺にも拡充を始めております。
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(a) 高知県全域 | |
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(b) 足摺岬エリア | (c) 黒潮町エリア |
図5 高知県内のセンサー整備状況 |
一般に、センサーを並べて置くことをアレイ配置と呼びます。アレイ配置によって変動の検知時間差を算出すれば到来方向などの空間情報が把握できます。同町内では、当初1辺約2 kmの短距離アレイと同約8 kmの中距離アレイを構成し、インフラサウンド発生方向の推定や各々のアレイの空間分解能などの基礎的データを蓄積しました(図5c)。これらの準備研究の結果を反映し、同助成の本格研究としての採択後に高知県内15地点の面的配置へと進めることができました。現在は、1辺約2 kmの短距離アレイを足摺岬に設置(図5b)、さらに1辺約25 kmの長距離アレイを室戸岬側と足摺岬側に設置しています(図5a)。
本ネットワークの観測データと観測事例紹介
研究段階での効率的なデータ把握に加え、本ネットワークの有用性を広く多くの皆様にご理解して頂く事を目的とし、 2016年秋より観測データ表示用Webページの開発に着手、2016年12月より関係者内での運用を行ってまいりました。今回、2018年9月1日(防災の日)に公開用ホームページ(本ページ)として一部を公開することとなりました。
本ページでは、高知県内計15ヶ所に設置された複合型インフラサウンドセンサーの観測データのうち正常に届けられたものを準リアルタイムグラフで閲覧できます。メンテナンス等の状況により観測機器が止まっている場合や、携帯電話回線による通信エリア限界の関係から一部のデータが途切れている場合もありますことをご了解の上でご覧ください。また各地点の設置場所の事情に依存して、観測データに人工的ノイズ等が含まれていることもあります。
本ページでは、各観測地点からの最新データは約14分に1回の頻度で追加・更新されます。また、作図設定ボタンにより観測期間を変えて描画することも可能です(「観測データ」タブを参照)。これまでに本ネットワークによる観測された地球物理学的現象の一部については「観測事例紹介」タブ内にて随時追加し紹介していく予定です。